株式会社 ブレーンセンター

社内浸透

理念浸透のススメ
~企業買収後のガバナンスと
社員のモチベーションのために~
<後編>

株式会社クレイグコンサルティング
代表取締役 小河 光生

掲載日:2017年10月30日

前編では、理念浸透がガバナンス強化や社員のモチベーション向上につながることを述べてきた。理念は現場に“良い仕事とは何か?”を問うことであり、単に儲ければよい、ということよりも成果を上げることは難しく、それが社員の共感・感動につながり、モチベーション高いチームが作られる。
後編では、理念浸透の上手な行い方を述べたいと思う。

1.具体的な理念浸透方法

理念浸透は、対象となる組織規模や企業風土によって有効な打ち手が変わる。そこでわたしがお客様企業の理念浸透をお手伝いするときは、主として以下の三つの方法を組み合わせて行う。さらに、下記に例示するイベントや研修の動画を取り、全社員が閲覧できるように編集したり、冊子にまとめたり、また象徴的なグッズを作って配ったりといった広がりを持たせることがさらに有効であることを付け加えておきたい。

①ステークホルダーマッピング

研修などの場で、自社のステークホルダーを書きだしステークホルダーと自社とのつながりを議論してもらう。図のような単純な絵に書き入れてもらう形式だが、職種や国によって出てくるステークホルダーはかなり異なることがおもしろい。たとえば日本では顧客、従業員、地域社会などがよく出てくるが、ヨーロッパではNPO/NGOや規制当局と言った、日本ではあまり馴染みのないステークホルダーが頻繁に出てくる。
理念に出てくる社会性の部分は一般の社員は直接感じにくい。その結果、単純に理念浸透を行うと社員には、「きれいごと」と取られてしまう。そこでステークホルダーマッピングで自分の周りのステークホルダーを書きだしてもらい、ステークホルダーの広がりとそのステークホルダーが感じている自社の価値、といったテーマでグループディスカッションしてもらう。すると社会的な価値の意味合いを自分事として考えやすい。営業であれば「顧客」というステークホルダーはすぐ出てくるが、「顧客」の先には顧客の家族がある、といったように広げれば、いままでの仕事の考え方が狭かったと感じることができる。

ステークホルダーマッピング

②リーダーシップ研修

組織のミドル・リーダーを対象としたリーダーシップ研修の形式を取ることも有効である。対象者は幹部候補生であることが望ましい。その部門に戻った時に組織内への拡散効果が期待できるからだ。研修内容はオムロンのように理念そのものを論じる環境を作ってもよいが、ファシリテーターが弱いと抽象論で終わって成果につながりにくい。
わたしはその企業のバリューチェーンを書かせて、ビジネスと社会との関係を論じて理念とのつながりを気付かせるワークショップをよく行う。バリューチェーンを分解し、それぞれの機能が持っている(ステークホルダーに対する)価値を議論する。近未来のバリューチェーンで議論することも効果的だ。その場合は新規事業のタネが見えてくることもある。
グローバルメンバーでワークショップを行えば、言語や文化的違いを認めたうえで普遍的な考えを共有できる。M&Aで加わった企業と相互理解を高めることも副次的効果となる。

③ワールドカフェ研修

広く浅く理念浸透を図る場合にはワールドカフェ研修が効果的である。ワールドカフェはグループワークの一形態だが、抽象的なテーマを掘り下げることに向いた形式である。テーマはずばりその企業の理念の一部を引いてきて、多様性のあるメンバーで議論する。参加者からそんな解釈の仕方があったのかという気付きを得て、自らの視野を広げつつ、理念を深く味わう機会になる。たとえば、理念に“豊かな社会の実現”という言葉があったとして、「豊かな」というところは、性別、年齢、国、民族すべてで考え方が異なる。お互いの違いを議論することで理念の浸透を狙う。実際やってみると、ワールドカフェは笑いが随所で巻き起こり、参加者のチームワーク醸成面でも効果がある。

2.グローバルビジョン、マテリアリティの浸透方法

経営ビジョンや中期経営計画をグループ・グローバルに浸透させる方法も簡単に触れたい。ビジョンや中期計画は理念と違って具体性が高いことが特徴である。そこで、ステークホルダーから生の声を取材・編集して、自分たちが感じている価値と、ステークホルダーから見た価値のギャップを考えさせることが有用である。
たとえば、わたしが在籍したPwCJでは、毎年全社員が参加するキックオフイベントに、お客様のトップマネジメントの方をお招きして、その方にPwCJの仕事ぶりを評価いただく講演をお願いしていた。
また、お客様からの感謝の手紙をいただいた仕事を映像化して動画をイントラネットに載せるという活動をしていた企業もある。どのような仕事がビジョンや中期計画に沿った仕事なのか、という点は、言葉で説明するよりも、ステークホルダーに語ってもらったり、動画で見てもらう方が言語や国を越えて共感を呼びやすい。それが手本になるような仕事、いわゆるベストプラクティスを認識する機会につながる。

マテリアリティをどう浸透させるか、という点についても上記と同じ方法で行うことができるが、マテリアリティについては、浸透以前に中期経営計画との関連が希薄なケースが散見され、それが浸透の阻害要因になっていることが多い。今年、味の素が中期経営計画に非財務情報を採り入れ、メディアに広く取り上げられていた。このようにまずマテリアリティ自体の位置づけをどうすべきか考えたい。

3.組織浸透のススメ

理念を持たない会社は存在しない。明文化されていない企業でも経営者には暗黙知として必ず存在する。しかし、理念を単に額縁に入れて飾ってあるだけの企業は数多い。これは非常にもったいない。これまで述べてきたように理念は社員を共感・感動させる力があり、組織を活性化させる良質なコンテンツである。
わたしは以前にホンダの工場で働く社員にヒアリングする機会があった。その時に彼・彼女は、ヒアリングの端々で「本田宗一郎はこう言っていた」「本田宗一郎はこう書いている」といった言葉が頻発して感動したことを覚えている。大企業でも脈々と理念は生き続けるのであり、またそれが組織風土の軸となりえる。
理念を経営の武器として、組織に、風土に、人材に、良質なコンテンツを浸透させ、これからの複雑系のマネジメントに生かしてみたい。

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